皆様はモーゼルワインをご存知でしょうか?モーゼルワインとは、ドイツのモーゼル河流域で造られる独特な風味をもつ白ワインのことです。
しかし、残念ながら近年のドイツワインも世界的な流行により、最新技術を駆使したクリーンで万人受けするワインが多数を占めるようになり、その個性を失いつつあります。
伝統的なスタイルを継承するクラシックなモーゼルワインには、この土地ならではのリースリングの豊かな酸と天然の甘みが織りなす感動的な味わいがあります。
今や数少なくなったクラシック・モーゼルに出会うことができれば、それはとても幸運なことなのかもしれません。
ここに紹介するワインは、昔ながらの伝統的な味筋を守り、ワイン造りに一生を捧げた人々が造る、後世に伝えていかなければならない貴重なワインのひとつだと思います。




      

まるでワールドカップスキーのダウンヒルコースのような急斜面に張り付く葡萄畑。もちろん機械などは使えず、命綱をつけての手作業という世界で最も過酷な条件下で極上のワインが造られます。 それも、すべては良いワインを造るため。
斜面を構成するスレート土壌に含まれるミネラル分と川面の反射光が葡萄に豊かな酸味と繊細な甘味を与え、世界でも最高といわれるリースリングを生み出す特異な土地がモーゼルなのです。
労働条件から考えれば、世界で最もコストパフォーマンスの高いワインで、生産者にとっては最も割りに合わないワインかもしれません。
モーゼルワインといっても、モーゼル河の下流には際立ったワインはありません。注目すべきはモーゼル河の中流から上流にかけて、そして支流のザール河、ルヴァー河流域のワインです。急斜面に植えられているのは、ほとんどがリースリング種の葡萄で、他のどの地域より繊細にして美しい味わいがあります。このリースリングがもたらす豊かな酸こそがクラシック・モーゼルの真髄であり、象徴といえます。

ただ残念なことは、後継者不足などによりリースリング生産者は年々減少しており、この素晴らしいワインを楽しめる時間は
そう長くは残されていないという現実です。




ここでご紹介する醸造所は、いずれも家族経営の小さな醸造所です。
昔ながらの伝統と手法を守り、古典的で素晴らしいモーゼルワインに生涯をかけた
心優しくも逞しい精神力をもった人々が造る珠玉のワイン達です。





    
モーゼル河中流域のブラウネベルクで1605年からワイン造りを続けるハーク家。
ブラウネベルクの超一流畑「ユッファー・ゾンネンウーア」などを所有し、リースリングのみ栽培しています。
そして、この傾斜70゜を越える断崖絶壁のような畑からリースリングの芸術品ともいえるワインが生み出されています。

「ゴーミヨ・ドイツワインガイド1994」では、ドイツ最高生産者に選出され、先代のヴィルヘルム・ハークは、V.D.P.(ドイツ高級ワイン生産者組合)の会長を務めたこともあるほどのモーゼルの名門生産者です。

現在、生産されるワインは辛口50%、甘口50%で『クリーンなワイン。ヴィンテージが違ってもフリッツ・ハークのワイン、ブラウネベルガーのワインと判るスタイルを目指している』と現当主のオリヴァー・ハークは語っています。


         







    
モーゼル河の支流・ザール河流域で造られるリースリングこそがモーゼルワインの原点と言えます。ワグナー家の歴史は19世紀半ばまで遡り、現在のオーナーはハインツ・ワグナー博士(71)、所有する畑はザールブルガー・ラウシュ、ザールブルガー・クップ、オクフェナー・ボクシュタインの3ヵ所でリースリングのみ栽培しています。
その全ての畑が鋤をつけたウインチを使うか手作業をするしかない急斜面で、収穫期以外は彼ひとりで葡萄の世話から醸造〜瓶詰めまでを行なっています。
醸造はほとんどが伝統的な木のフーダー(1000L)の樽で行われ、歯切れのよい爽やかな味わいを感じさせる混じりけのない強い酸のある典型的なザールワインです。
ザールといえば世界的に有名なエゴン・ミュラー家がありますが、ワグナー氏のワインはまったくひけをとらないザールでもトップクラスの品質と言えます。

かつては無名に近かったワグナー家のワインを日本のワイン輸入元・活葉の稲葉氏が日本に紹介した後、1987年にはワイン生産者の最高の名誉である「スターツエーレンプライズ賞」を受賞し、世界中のワイン雑誌、ワイン評論家からも高い評価を受けています。
ワグナー氏のワインは、ミネラル分が豊かで、切れ味のよい酸、シャープで洗練された伝統的なスタイルのワインで、食事の素晴らしいパートナーとなり、驚くほどの長い寿命を持ちます。私も20年近く前にワグナー氏のワインを初めて口にした時の事を、今でも鮮明に覚えています。それほど衝撃的で印象深いワインで、このモーゼルの伝統的なワインをできるだけ多くの方々に知って頂きたいと願っております。

         







   
1967年にカール・エルベス氏によって設立された醸造所。カール・エルベス氏は1997年を最後に閉鎖された名門ワイナリー「クリストフェル・ベレス家」のケラーマイスターも30年余り務めていました。

所有する畑はユルツィガー・ヴァルツガルテン(薬味の庭)とエルデナー・トレプヒェンの合計4haです。栽培されている葡萄はすべてリースリングで、最高樹齢80年を筆頭にその多くが古樹です。また、畑の大部分が非常に厳しい農作業を強いられる急斜面で、機械は使用できず、ほとんどが手作業により行なわれています。

醸造は伝統的な樽が使用され、ほとんどがフルーティな甘口タイプのワインです。
口に含んだ瞬間にフレッシュな果実味が弾ける、とても直感的でクリーンな味わいが特徴で、数あるモーゼルワインの中でも明らかに傑出した印象的なワインを造っています。
葡萄は十分に選別され、いつも品質が安定しており、まさに「リースリングの芸術品」といえる素晴らしい味わいがあります。
ハインツ・ワグナー博士のワインが酸を重視したタイプなら、こちらは果実味を重視した好対照なワインで、リースリングという葡萄の様々な表情が楽しめることと思います。

         






   
1648年よりワイン造りを始めたステファン・エーレン家は、モーゼル中流域のレスニッヒ村にあり、建物やセラーは彼の祖父によって1889年に建てられました。
葡萄畑はエルデナー・トレプヒェン、エルデナー・ヘレンベルク、レスニッヒャー・フェルシュターライ、レスニッヒャー・ブルグベルグの4ヵ所で、最高斜度70゚の急斜面にあります。土壌はレッドストーンが混じるスレートで、豊かなミネラル分を含み、リースリングにとって最適な土地といえます。栽培しているのは、70年樹齢を含む100%リースリングのみです。
ワイン造りには、伝統的な1000リットル入りのモーゼル・フーダー樽またはステンレスタンクを使っており、ステンレスタンクは、フレッシュで天然のCO2を含んだワインを造り、木樽はワインのバランスと熟成のために使われます。

ステファン・エーレンは、甘すぎるワインの信奉者ではありません。甘すぎるとワインのキャラクターを壊してしまい、ハーモニーが失われてしまうと考えています。彼は、食事に合うワイン、そして寿命の長いワインを造ることを自分のゴールと考えています。

地元の専門家たちは、1500〜1600年代のモーゼルのクラシックな味筋を守っている数少ない生産者である、と言います。
ステファン・エーレン家のワインは、全体的に控えめな甘さの落ち着いた味わいがあり、クラシックなモーゼルワインの風情を感じることのできる数少ないワインです。

2002年にはエーレンも70歳になり、ワイン造りはミューレンホフのステファン・ユステンに引き継ぎました。

         




        

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