<2010.1.14更新>

2009年のボジョレー・ヌーヴォーほど話題の多かった年も珍しい。
作柄に関しては良好で、発売直前になってマスコミが『50年に一度』という、ふれこみで取り上げたため、ここ数年では一番の売れ行きとなりました。

といっても、ボジョレー・ヌーヴォーは、まだ葡萄の収穫も始まらない9月の初旬に日本からフランスにオーダーを出さなければならないため、予想で発注数を決めなければなりません。

ここ数年、スーパーやコンビニでヌーヴォーを取り扱うようになってからは有難みも失せてきて、輸入量は年々減少傾向となっており、今年も実際には昨年の約85%程度の輸入量に留まりました。

そこに『50年に一度』や『ペットボトル入りヌーヴォー』でマスコミが煽ったため、お客が殺到し、品不足となったという次第です。
当店でも解禁日当日の夕方には、すべて完売という売れ行きでした。

毎年、大量に売り残していたスーパーやコンビニも今回は初めて売り切ったのではないのでしょうか。

◆サントリーしてやられる!?
また、輸入に関する大きな変化としては、昨年までスーパーやコンビニにヌーヴォーを供給していたサントリー、メルシャン、アサヒビールなどの大手輸入業者は、前年に比べ取扱量を大きく落とすことになりました。
というのは、イオングループや西友などの大手スーパーが今年から大手輸入業者を使わず、自社輸入を開始してしまったからです。
大手輸入業者はまんまとしてやられたという形で、サントリー35%減、メルシャン22%減、アサヒビール25%減と前年に比べ大きく減らすことになりました。

また、この事が後で波紋を広げることになります。

◆昨年にまたまた続きスーパーの馬鹿げた安値合戦続く
昨年のボジョレー・ヌーヴォーでも醜い安値合戦を繰り返したイオンと西友が、またまた今回も馬鹿げた安値合戦を繰り広げ、醜態をさらしました。

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醸造産業新聞社の「酒販ニュース」2009年12月1日号によると
『旬の商材 安売りの愚』というタイトルで

案の定というべきか、そこまでやるかというべきか。11月19日解禁のボジョレー・ヌーヴォーでイオンと西友が昨年に続いて「最安値合戦」を演じた。その「具」は直輸入のPET入り。旬の商材を安売りする「愚」でもあった。

安値合戦の経緯はこうだ。
11月9日 イオンが昨年1280円だった750mlPETの売価を980円と発表。
11月12日 西友が750mlPETを890円と発表。
11月17日 当初は750mlPETを1280円としていたDSドンキ・ホーテが880円に修正。
11月19日 解禁当日にイオンが「お楽しみボジョレー・ヌーヴォー」として、ジャスコなど
         で6000本限定で別のブランドを750円で発売。
11月19日 午前10時に西友が780円から749円に再値下げして販売。

イトーヨーカ堂も解禁日には予約商品にないPET入りを980円、ベイシアもオリジナルPET入りを890円で販売した。
(以上抜粋)
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今回の安売りに関しても「ペットボトル入りだから運賃を安くできた」というふれこみだが、はたしてそうなのだろうか?
確かにボジョレー・ヌーヴォーは航空機により空輸するため、運賃は一般的な船便より遥かに高くつきます。しかし、重量は減っても量そのものは減らないため、運賃がそれほど安くはなりません。
また、航空機燃料も少なく済むので「エコ」だと宣伝文句にしていますが、石油原料によるペットボトルを新たに生産しているので、こちらも怪しいと言えます。。
今の世の中、物を売るために「エコ」という言葉を乱発しているのでそのあたりは気を付けたほうがよいと思います。

そもそも、イオンの「フィリップ・ド・メリー」、西友の「フランソワ・フッシェ」なるペットボトル入りボジョレー・ヌーヴォーに関して、私は20年以上ワインを販売していますが初めて聞く名前です。
「フィリップ・ド・メリー」のバックラベルには『MIS EN BOUTEILLEANUITS-SAINT-GEORGES』と記されているので、ボジョレー地方のワインをニュイ・サン・ジョルジュ(ボジョレー以外の地区)のワイン商がボトリングしたというのは間違いないようです。
残念ながら今回、私は両者とも試飲していませんので正確なコメントは出来ませんが、ネットで調べる限り、あちこちのブログなどで『50年に一度にしては、淡白な味』というコメントが目立つのは事実です。

そして、遂にと言うか、このペットボトル・ヌーヴォーが生産者団体であるボジョレー委員会を怒らせるという前代未聞の事態を引き起こします。

◆ついにボジョレー委員会、怒る! スーパーの直輸入停止も検討
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醸造産業新聞社の「酒販ニュース」2009年12月1日号によると

仏AOCボジョレー統制委員会のダニエル・ビュリア会長は同誌の取材に対し、スーパーの直輸入拡大による安売り拡大についても強い懸念を示した。

「既存の輸入業者の商売を損ない、長期的にみて生産者、輸入業者、販売業者が平等に利益を得る構造が崩れる。ワイン生産者組合で団結して、直輸入を止める方法を考える」としている。
ただ、大手スーパーの直輸入はすでに相当規模の実績がある。他の生産国や地域との競争上、直輸入停止の実現性は低そうだ。
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ボジョレー地方の主力産業はワイン。もちろん、この地方の新酒「ボジョレー・ヌーヴォー」は有名ではありますが、通常の「ボジョレー」や「サン・タムール」、「モルゴン」などのクリュ・ボジョレーと呼ばれる村名ワインこそがこの地方の主力ワインです。
この主力ワインとボジョレー・ヌーヴォーを日本に紹介し、地道に販売してくれていたのが既存の輸入業者や販売者であり、長い時間をかけて築き上げた信頼関係もあります。
それをいきなり、販売量にモノを言わせて、一番おいしいところだけをつまみ食いする様なやり方はどうなのか? という事なのでしょう。
もちろん、その事が将来的な生産者たちの生活を脅かしかねないという判断だと思います。


◆「来年のボジョレー・ヌーヴォーからペットボトル禁止!」
  仏AOC統制委員会が決議

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醸造産業新聞社の「酒販ニュース」12月21日号によると

仏AOCボジョレーワイン統制委員会はこのほど、2010年産ボジョレー・ヌーヴォーにペット容器の使用を禁止することを決議した。
日本市場での過度の安売り合戦を受けて、大多数を占める中小ワイン生産者に配慮し、商品や産地のイメージ、価格帯の維持を図ろうとする判断だ。

量販店に低価格PETヌーヴォーを供給する輸入業者には「PETから瓶に戻しても、航空運賃や為替レートが今年と同程度なら、量販店の低価格ヌーヴォーはさほど影響を受けない。技術的に同程度の価格設定は可能だ」(中堅A社)との見方もある。
今年のPET入りヌーヴォーの輸入販売数量は約7万ケース、ボジョレー・ヌーヴォー市場の約15%を占めた。
(以上抜粋)
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実はこの「ペットボトル問題」は、昨年(2008年)のペットボトル・ヌーヴォー発売時点でボジョレー委員会から苦言が呈されていたのを無視して、日本の大手スーパー等が更に拡大して輸入したというのが事の真相です。

消費者にとっては「安い」というのは、この不況の折、もちろん歓迎されることですが、一連の流れを見る限り、今回の場合は日本の大手スーパーが自分達の「安売り合戦」の売名行為の道具に「ボジョレー・ヌーヴォー」を利用したという見方が正しいでしょう。

今回の仏AOCボジョレーワイン統制委員会の決定には奥深い事情があります。

そもそもボジョレー・ヌーヴォーとは、フランスのボジョレー地区の農民達の収穫祭であり、
葡萄を栽培する農家や季節労働者、家族経営の中小ワイン生産者たちにとって、重要な収入源のひとつでもあります。
ここ数年前から日本のスーパーやコンビニなどでヌーヴォーを販売するようになり、大量生産、大量販売の流れからボジョレー地区以外の大手業者がボジョレー地区の葡萄を買い集めてボトリングするようになってきています。

このままでは、長い時間をかけて築き上た「ボジョレー・ヌーヴォー」というブランドをスーパーの安売りの目玉商品に祭り上げられ、イメージダウンさせられた挙句、売値下落による収入源低下という二重苦に苦しめられることになります。

彼らにとってこの「ペットボトル問題」は、決して無視することのできない大きな問題なのです。私達が日本で「安い」と喜んでいる裏で、遠く離れたフランスの農民達が苦しんでいることを知ることが必要です。

◆ボジョレー・ヌーヴォーに世の中の縮図を見る
2009年のボジョレー・ヌーヴォーの裏側はまるで現代社会の縮図を見るようです。

テレビや新聞などのマスコミは、話題になる情報だけを取り上げて報道し、昨年からすでに問題となっていた「ペット問題」には一切触れずじまい。
これも大手スーパーや商社などのスポンサー絡みで報道できないではないかという懸念もあります。

「エコ」や「安売りこそが一番」といった御旗を掲げ、消費者の代表のような顔をして突っ走る大手スーパーの無軌道ぶり。
事の重大さを少しも理解せずに売上の数字だけを目指す企業が、結果的には生産者などの弱者を苦しめ、利益をむさぼり、やがては社会の仕組みを壊してしまう...そんな縮図が見てとれるようです。

ワインは農産物です。ワインは葡萄そのものですから、簡単に生産量を調整できるものではありません。ましてや日本のスーパーが自分達の目先の利益だけのためにその仕組みを壊してしまう事はあってはなりません。

多くの農民たちが一年間という長い時間をかけて育てた葡萄から造られる貴重なワインなのです。 それを知れば、ワインをよりおいしく楽しめると思います。



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