<2007.12.11更新>

巷で「幻の名酒」と呼ばれている酒があります。日本酒の<久保田> <越乃寒梅> <八海山> <雪中梅> <〆張鶴>..、焼酎では<森伊蔵> <伊佐美> <百年の孤独>などが代表的なところでしょう。この「幻の...」なる商品、いったい誰が名付けたのでしょうか? おそらく、売り手側か雑誌などのライターが名付け親であることは間違いないでしょう。
スーパーやディスカウントストア、インターネットなどで非常に高値で販売されているお酒ですが、ほとんどの消費者は本当の価格を知らされていません。実はほとんどの商品が定価の2〜3倍、森伊蔵にいたっては20倍近い価格で販売されているのが現実です。

●なぜ、高い?プレミアム価格の真相
では、なぜこのような価格なのか?
これらの商品の多くは、「限定流通」と呼ばれる一部の特約店のみで販売されるプライベートブランドで、希少性を重視した商品として販売されてきました。しかし、広告や情報発信の少ない酒業界の中で、これらの商品は巧みにグルメ雑誌などのメディアを利用し、「幻の...」という冠詞を付けて、世の中の注目を集めたのです。
そうなると当然、特約店以外でも売りたい店が続出し、『横流し』が始まったのです。特約店が一般消費者以外の業者やブローカーなどに転売し、そこから更に転売し、売値が雪だるま式に膨らんでゆくのです。これがいわゆる“プレミアム価格”の実態です。
現在では、これらの横流し品を扱うブローカーや現金問屋などのルートが確立されており、特約店以外のほとんどの販売店に商品が供給されています。そして、彼らは年間数億円から数十億円という売上を稼いでると聞きます。また、一部が暴力団の資金源になっており、過去に何度か摘発もされています。

幻銘柄は特約店よりも遥かに多い店で販売されているのが実情です。例えば西友やジャスコなどの大手スーパーチェーンやカインズホームなどのホームセンターなどでも、堂々と定価を遥かに上回る価格で販売されています。そのため多くの消費者が、その店頭価格が定価であると信じているようです。実際には、定価すら知らない商品知識の店や知ってて高値販売する確信犯の店が、『置いておけば売れる』という理由で販売しているため、この問題を更に助長させています。

鰹造産業新聞社の「酒販ニュース」によると、国税庁がまとめた平成18年度の間接国税犯則事件のうち、「横流し」により摘発された違反者は6件で、すべてが酒類小売業者によるもので、合計数量は2005キロリッター。一升瓶に換算すると約140万本と膨大な数の「幻銘柄」が横流しされていることが判明しており、この数は2年連続で増えているという。


●日本中どこにでもある「幻銘柄」の真実
今や日本中のどこの町へ行っても必ずどこかで売っている幻銘柄。全国的な販売量は膨大で、実際には「希少品」ではなく、明らかな「有力銘柄」です。
例えば、「百寿」、「千寿」、「萬寿」などで知られる「久保田」。この酒を造っているのは新潟の朝日酒造です。朝日酒造といえば、東日本最大の酒造メーカーで、地酒というより「澤の鶴」や「剣菱」に次ぐ大手メーカーです。
「久保田」は全国約760店ほどの「久保田会」なる特約店の限定流通商品です。「久保田」の年間生産量は一升瓶換算で300万本を越えています。計算すると1店当り年間4000本販売している計算になりますが、「久保田会」の加盟店のほとんどは個人経営の町の酒屋さんですから、それだけの販売量はありえないと考えるのが妥当でしょう。実際に当店のある茂原市には特約店は1軒もありませんが、多くのスーパーやホームセンターで「久保田」は販売されており、そのすべてが「横流し品」であることは間違いありません。

地酒に詳しい人々の間では「久保田」は「越乃寒梅」の二番煎じを狙った酒というのが大方の意見です。まだ日本中の酒が甘口ばかりだった昭和40年代に、さらりとした淡麗辛口の酒として登場し、初代「幻の酒」としてもてはやされたのが同じ新潟の「越乃寒梅」でした。業界で「久保田」は、広告メディアを巧く利用し、希少性を売り物にしたマーケティングでの成功例として認識されています。
しかし、これだけ全国的に認知された銘柄において、有名無実の「限定流通」、「横流し」、「異常な価格」を黙認する企業の姿勢は問われるべきでしょうし、それを煽ったメディアや販売者側にも当然責任があると思います。


「幻銘柄」のメーカー希望小売価格(価格は消費税別)
・久保田 百寿(本醸造)     1.8L  ¥1930
・久保田 千寿(特別本醸造)  1.8L  ¥2330
・久保田 紅寿(特別純米)    1.8L  ¥3180
・久保田 碧寿(純米大吟)    1.8L  ¥4830
・久保田 萬寿(純米大吟)    1.8L  ¥7780
・越乃寒梅 白ラベル(普通酒)  1.8L  ¥1940
・越乃寒梅 別撰          1.8L  ¥2420

・八海山 (普通酒)        1.8L  ¥1905
・八海山 (本醸造)        1.8L  ¥2293
・八海山 (吟醸)          1.8L  ¥3304

※一部商品には県内/県外価格があります。


●実際に「幻銘柄」の味はどうなのか?
当店にも多くの方々が「幻銘柄」を求めて来店します。話をしてみると、ほとんどの方々が地酒を飲んだことがないという人達です。ただ、有名だからという理由や「高いから、おいしいだろう」という方が大半を占めます。
久保田や八海山などは、定価で買えるなら、それなりのお酒かもしれませんが、倍以上の金額を出すとなると、その価値には値しません。普段から地酒を愛飲している方々は、これらの「幻銘柄」には手を出しません。もちろん定価で入手できれば話は違いますが、彼らは質と価格のバランスをよく知っているからにほかなりません。

これらの「幻銘柄」が人気を博すようになって、すでに20年以上の歳月が経ちます。その間に他の酒蔵の品質は飛躍的に進歩し、時代は変わりました。現在では「幻銘柄」よりも高く評価される酒が山ほどあるのが事実で、愛飲家の間でひっそりと楽しまれています。
それらの酒蔵は、メディアに取り上げられることさえ拒否し、自分たちの目指す酒造りに取り組み、決して量を追わず、質のみを追求しています。

公的機関が主催する唯一の酒類コンテストとして知られる「全国新酒鑑評会」。全国の酒蔵の多くがその年に造った酒を出品し、各国税局ごとの予選を通過したものだけが出場できる“お酒の全国大会”です。今年(平成18年酒造年度)は、この大会で全国で252銘柄が金賞を受賞しましたが、「幻銘柄」は“〆張鶴”と“雪中梅”のわずか2銘柄のみ、昨年(平成17年酒造年度)は、全国253銘柄金賞受賞中、“八海山”と“雪中梅”のみでした。
これはあくまでも1コンテストの結果ですから、もちろん、その蔵の酒すべてにあてはまるわけではありません。しかし、酒造技術の審査においては高く評価できる権威あるコンテストであることは間違いありません。
ちなみに“雪中梅”の杜氏さんは、以前に当店近隣の「稲花酒造」で杜氏を勤められていた方です。


「久保田」が年産300万本以上、「八海山」300万本、「越乃寒梅」150万本という膨大な生産量から、「手造りの温もり」を感じられる人がどれだけいるのでしょうか?

確かに「幻銘柄」は、地方の地酒を広く全国に知らしめたという点で褒め称えられるべきでしょうし、混ぜ物たっぷりの酒パックより圧倒的に上質な酒が地方にあるということを知らせました。
しかし、時代は変りました。たぶん貴方の地元にも「幻銘柄」を越える名酒があるかもしれません。それも、とてもお手頃な価格で!

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